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2026/02/06

こわい話

 皆さんは「こわい話」得意でしょうか。私は小さな時から、怖い話は大っきらい! 子供のころ父が寝る前に時々聞かせてくれる話におとぎ話、体験したこと、創作、があって、中でも怖かったのは人魂を見た話や心中した友人の話で、子供向けではないものでした。戦中を生きた年代らしいと今だから思えます。

 そんな私にエクスナレッジの編集者から「怪奇建築探訪」の連載第二回に「ラルゴ魔館」を取り上げるのだが、この建築の資料がないのでここに住んだ詩人の体験談をもとに間取り図を作成してくれないか―と頼まれました。

 ラルゴ魔館は椎名町(現豊島区南長崎)にあって、詩人は茶室部分を間借りして不思議な体験をしたということです。(もう既に、椎名町というだけでまがまがしく怖い。椎名町は帝銀事件のあった街で、事件後「南長崎」という地名に変えられた。)住んでいたのは1980年2月から12月までで、夏になっても寒く体調を崩して退去にせざるをえなかったという曰く付きです。

 間取りを紐解くカギになったのは「板の間がある茶室のような部屋の中心にむき出しの柱が一本立っている」というところです。想像したのは村野藤吾が好んで用いた残月床です。この床は2畳ほどの広さの板床になります。普通の床の間しか見たことのない人は不思議に思うはずです。二畳ほどの床の間の端に柱が立っているのですから。

別冊新建築 日本現代建築家シリーズ⑨ 村野藤吾 より
P252 村野藤吾邸 10畳の座敷
残月床とは床が他の畳敷きより1段上がるらしい。起源は利休・秀吉の聚楽第にある。

以前にも松家仁之さんから、執筆中の「火山のふもと」という小説を読み、文中の建築のプランを考えてみてくれないか、依頼されたことがあります。アトリエの3人、3者3様、違う案になりました。空間認識は人それぞれが経験・学習から培われるもので当然の成り行きだったでしょう。松家さんの中には正解があっても今回の場合は正解のない謎解きでした。

  住宅建築家の仕事も家を建てたい、改修したい施主の話を聞き取って、形にしていくものです。しかし、今回のような怖い話ではなく、楽しい暮らしを想像するもので良かったと、ほっとしています。

 最近の「こわい話」は、計画していた工事額の倍で出てきた見積書なんですけど。

この号の仏像・寺院建築の解説は、保存版です。読みごたえがあります。面白いです。
松家さんの本は安岡章太郎の小説を想起させます。大好きな本です。

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